
公開: 2026年6月16日更新: 2026年10月30日約 6 分
登山口でよく見かける「クマ鈴」。鈴が実際にクマの行動を変えるのかを、野外の記録で調べた研究は多くありません。 今号は、その数少ない例としてよく引用される Jope(1985)を取り上げ、論文で分かったことと分からないことを分けて読みます。
Implications of grizzly bear habituation to hikers
Jope, K. L. (1985). Wildlife Society Bulletin 13(1): 32–37.(米国の国立公園で、ハイカーとグリズリー〔ハイイログマ〕の遭遇を調べた研究)
Conservation Evidence の要約を見る →- ハイカーが 150 m 以内でグリズリーを見た報告 97 件を集め、鈴を付けていたかどうかで比べた
- 鈴ありでは、止まっていたクマが離れていった割合が67%(鈴なし 26%)、突進は0%(鈴なし 14%)だった
- ただし鈴ありの遭遇は20 数件と少なく、北米のグリズリーの結果。日本のツキノワグマで同じ効果があるかは確かめられていない
この記事の目次(全 5 項目)
研究の概要
調査は米国の国立公園内の森林で、約 154 km² の範囲を対象に、 1980 年(6 月 3 日〜9 月 15 日)と 1981 年(6 月 14 日〜9 月 22 日)の夏に行われました。
- 15 日おきに時間を決めて登山道の利用者を数え、そのときにクマ鈴を付けているかどうかも記録した
- ハイカーに聞き取りをして、クマとの遭遇の様子(クマがどう動いたか)を集めた
つまり、研究者がクマの前で鈴を鳴らして比べた「実験」ではなく、ハイカーの報告をもとにした観察研究です。
分かったこと
ハイカーから集まった、150 m 以内でクマを見たという報告は 97 件でした。 そのうち、ハイカーが鈴を付けていたのは24%です。
- はじめ止まっていたクマのうち、ハイカーから離れていった割合: 鈴あり 67% / 鈴なし 26%
- クマがハイカーに突進した割合: 鈴あり 0% / 鈴なし 14%
数字だけを見ると、鈴を付けていたハイカーの前では、クマが離れていきやすく、突進は起きなかったことになります。 「人が近づいていることを、クマが早めに知る」ことと矛盾しない結果です。
限界と注意点
- 件数が少ない:97 件の 24% なので、鈴ありの遭遇は単純計算で 20 数件です。 「止まっていたクマ」に限った比較はさらに少なくなります。 1〜2 件の違いで割合が大きく動く大きさです。
- 観察研究である:鈴を付ける人と付けない人では、歩く場所や人数、話し声の大きさなど、 ほかの条件も違っていたかもしれません。差がすべて鈴のおかげとは言い切れません。
- 報告はハイカーの記憶にもとづく:遭遇の様子は聞き取りで集めたもので、 見落としや思い違いが入る余地があります。
- 北米のグリズリーの結果:日本にいるツキノワグマやヒグマとは、種・地形・人の利用の仕方が違います。日本のクマに鈴が同じように効くかは、この研究では確かめられていません。
日本で暮らす私たちへの示唆
この研究だけで「鈴を付ければ安全」とは言えません。一方で、環境省や各地の自治体は、 山に入るときに鈴やラジオ、声などで人の存在をクマに知らせることを勧めています。 Jope の結果は、その考え方と食い違うものではありません。
- 鈴は「人がいることを知らせる手段の一つ」と考え、見通しの悪い場所や沢沿いなど音が届きにくい場所では、ときどき声を出すなども組み合わせる
- クマに出会ってしまったら、走らない・背を向けない・ゆっくり離れる
- 突進されたらクマスプレーを使う(5〜10 m で顔に向けて 1〜2 秒ずつ噴射。環境省が示す目安は、噴射距離 7.5 m 程度以上・噴射時間 6 秒程度以上・CRC 1〜2% 程度)
- 防衛的な攻撃で接触が避けられないときは、うつ伏せになって首の後ろを手で守る。執拗に襲ってくる・捕食的な攻撃なら反撃する
遭遇を避ける基本は クマ対策の総合ガイドにもまとめています。
※ 本記事の解釈は獣医工学ラボ編集部の責任において行ったもので、原著者の主張を完全に再現したものではありません。 学術的に厳密な議論が必要な場合は必ず原典をご参照ください。本シリーズへのご意見・取り上げてほしい論文のご要望は 運営情報のお問い合わせ先まで。
2026 年 10 月 30 日 改訂:原典と照らし合わせ、論文の内容と異なっていた記述を全面的に書き直しました。
参考文献
Implications of grizzly bear habituation to hikers(本号メイン)
Jope, K. L. (1985). Wildlife Society Bulletin 13(1): 32–37.
Conservation Evidence の要約を見る →
山や畑に入るときの基本の備え。音で存在を知らせ、薄暗い時間帯を避けるのが第一です。
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この記事はくまウォッチ編集部が執筆しました。実際のクマ対策にあたっては、各自治体の最新情報・専門家の指示・現地ガイドの判断にも従ってください。
